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【六甲ミーツ・アート芸術散歩2023 beyond × Artist in Residence KOBE(AiRK)】ダンサー・Daniel Proiettoとキュレーター・森山未來が語るパフォーマンスの見どころ

8月26日より六甲山上(神戸市灘区)で行われる現代アートの芸術祭「六甲ミーツ・アート芸術散歩2023 beyond」。14回目を迎える同イベントでは、今年から様々な新施策が実施され、その一つとして『Artist in Residence KOBE』の森山未來さんをキュレーターに迎え、海外から招聘したダンサー・Daniel Proietto(ダニエル・プロイエット)さんによるパフォーマンスが披露されます。

開催を直前に控えた今、本番に向けて準備を進めるダニエルさんと森山さんに、二人の出会いのきっかけやパフォーマンスの見どころについてお話を伺ってきました!

 

今回、パフォーマーをダニエルさん、キュレーターを森山さんが務めますが、お二人の出会いについて教えてください!

ダニエル(以下:ダ)初めての出会いはおそらく2010年。きっかけはベルギーの振付家、シディ・ラルビ・シェルカウイ氏が主催する国際的なダンスプロジェクト「テ ヅカ(Te ZukA)」でした。参加メンバーは欧米人が中心でしたが、日本からも3名のダンサーが参加していて、そのうちの1人が未來だった。手塚治虫の生きざま・作品に焦点を当てた、とても素晴らしいプロジェクトでした。

森山(以下:森)イギリスのサドラーズウェルズ、日本の東急文化村(東京)、シディ・ラルビ・シェルカウイ氏のエージェントでもあるベルギーのイーストマン、これら三つの劇場による共同プログラムという形で、僕は日本側から呼んでもらって参加させていただきました。

パフォーマンスは、アーティスト・川俣 正さんの出展作品「六甲の浮き橋とテラス」(@ROKKO森の音ミュージアム)の上で行われます

10年以上の付き合いになるんですね。初めて出会った時のエピソードや、森山さんに対する印象について教えていただけますか?

ダ:出会った当初、未來は今ほど英語を話すことができなかったので、言葉の代わりにジェスチャーで主にコミュニケーションを取っていましたが、それが私にとっては『美しい出会い』でした。まるで子どもと子ども同士の出会いというか、笑顔がたくさん、笑いがたくさん。言葉が使えない分、体を使って、表情を豊かに使って。そんな出会いだったことが、とても印象に残っています。

その後、年を経て未來が完璧な英語を話し始めてからは、より深いコミュニケーションが取れるようになりました。

そうしてお互いを知る中で、私は未來に対してリスペクトしていることが2つあります。1つは、コンテンポラリーダンス以外に映画の世界でも大きなキャリアを持っているのに、コンテンポラリーダンスに多大な時間を費やしている点です。コンテンポラリーダンスは(映画などに比べて)小さな世界ではあるものの、そこに時間をかけることで、アンバサダーのような役割も果たしてくれています。

もう1つは、彼はとにかくクレイジーで革新的なんだ!そこは僕たち二人に共通している点でもあると感じています。ほかにも、「BUTOH(暗黒舞踏)」に対する興味・愛情も、互いに共有している部分だと思いますね。

森山さんはダニエルさんに対して初めはどんな印象をお持ちでしたか?

森:当時は海外でワークをするというのが初めてで、さっきダニエルが言ってくれていたとおり、日本人のキャストがほとんどいない状況で、コミュニケーションがうまくいかない中、クリエーションが始まりました。

「テ ヅカ(Te ZukA)」という作品においては、“誰が主役” というのが明確ではなかったんですが、明らかにダニエルは作品の中で “メインキャラクター” のひとりを演じていて。すごく繊細なのにダイナミックな動きで、バレエベースといってしまうと単純かもしれませんが、そこを超えた表現をする彼のパッションがとても圧倒的で。ダンサー・アーティストとしてすごく素晴らしいという印象をまず受けました。

性格もすごく朗らかで、コミュニケーションがうまく取れない僕に対しても、オープンにコミュニケーションを持ちかけてくれたというか、色んな意味で『言葉』というフィールドではないところから関係性が始まりましたが、だからこそ余白を感じあえる時間が最初にあったのは、僕らにとってとても重要だったと思います。今、自分の活動の幅が広がっていくにつれて、コンテンポラリーダンスに対するフォーカスも13年前と変わってきている中で、お互い「舞踏」というものに対して共通の興味を持っていることも(関係性の構築)に影響していると思います。

お互いに共通点を持ち、リスペクトし合う関係なんですね。そんなお二人が今回「六甲ミーツ・アート」でタッグを組みますが、ダニエルさんが参加を決意されたきっかけは何だったのでしょうか?

ダ:未來から連絡があって、六甲ミーツ・アートについて説明をしてもらいました。私自身、自然が大好きで、人間は誰でも自然とつながることがとても大事だと思っています。その反面、現代に生きる私たちは少しずつ自然の世界からかけ離れていっているのではないかとも感じていて。

今回のパフォーマンスは六甲山を舞台に行いますが、私自身も自然の中でパフォーマンスできることはもちろん、来場するお客さんにも自然の中に足を運んでもらう機会となります。そんな “お客さんのための環境づくり” も面白いと思い、参加を決意しました。自然の中でライブパフォーマンスをするのは今回が初めてなので、すごく楽しみです。

あと、私は舞踏家の大野一雄さんをとても尊敬していて、彼の本を昔から持っているのですが、その本に掲載された大野さんが池に入っている写真がとても印象に残っています。今回は六甲山上にある池の周りにステージが設立されると聞いているので、その写真を再現できるかもしれないことも、少し楽しみにしています(笑)。

森:大野一雄さんは「暗黒舞踏」のオリジネーターとされている人で、土方巽・大野一雄のお二人が暗黒舞踏の創始者とされています。今回のパフォーマンスは彼らに対するリスペクトを基に生まれている側面もあります。

続いて、ダニエルさんのこれまでの活動についてお聞きします。クラシカルバレエとの出会いや自身のパフォーマンスのコンセプト、踊っているときに大切にしていることについて教えてください。

ダ:母からの勧めをきっかけに、クラシカルバレエの前にも音楽や演技、彫刻、古典文学など、さまざまな芸術を学び始めて。兄弟たちと様々なワークショップにも参加していました。

バレエは姉の方が先に始めていて、ある日、バレエスクールの待合室で姉を待っている間に、先生が私に「レッスンに参加してみないか?」と声をかけてくれたのがきっかけです。最初は少し迷ったんですが、今まで私が学んできた演技・芸術・音楽を総合的に表現しているのがバレエで、これまで学んできたことを全部表現できるのは美しいと考え、レッスンに参加することを決めました。

それから本格的にバレエを学びたいと、ブレノスアイレス*のオペラハウスでバレエを学び始め、16歳の時にチリの『サンティアゴ・バレエ団』に入団しました。

*アルゼンチンの首都。

でも、当時の僕は少し反抗的で…(笑)。同じステップを繰り返すバレエのレッスンをつまらなく感じて、どんどん形を変えていきたいという思いがありました。先生とも意見がぶつかる中で、クラシカルバレエでは決められた形を崩すことは不可能だと知り、どういったことを学べば変えていけるのかを考え、次第に「コンテンポラリーダンス」の方に移っていきました。

自分のパフォーマンスで大切にしているのは、“伝統と革新” を掛け合わせることですね。現在、クラシカルバレエとコンテンポラリーダンスはまったく別のものになっている感じがしますが、昔はもっと近しいものだったのではないかと思っていて。伝統と革新を再び近づけて一つのものとして表現するよう心がけています。それもあって「日本舞踊」や「BUTOH」にも興味が出ているのだと思います。

「Stars」

今お話に出た「日本舞踊」について、バレエ(西洋のダンス)との違いはどのような点で感じていますか?

ダ:まず踊りのフォームとして、日本のものと西洋のものでは様々な違いがあるのはもちろん、表情の作り方も西と東では大きく異なります。そのため、欧米人が日本舞踊やアジアの踊りに触れる場合、同じ踊りであってもゼロから学ぶ必要があると思います。

次世代への伝え方・教え方もまったく違っていて、欧米では速く教えるのが一般的で、学ぶ方も割と表面的な取り入れ方・表現になっていると感じる一方、日本では細やかなところまで先生方が教えてくださいます。歴史や先人の方々、芸術の始まりをリスペクトした学び方・教え方・伝え方を大切にされているのでしょう。

私自身、もともと「日本舞踊」や「BUTOH」「歌舞伎」のスタート地点、エッセンスに興味を持っているので、こうした学び方は素敵だと思っていて、細やかな部分までしっかり学ぶよう心がけています。

(左)「Sinnerman」、(右)「Simulacrum」

パフォーマンスの舞台となる神戸の街に対する印象も聞かせてください。ダニエルさんは神戸に来られるのは今回が初めてですか?

ダ:大阪と京都には行ったことがあるのですが、神戸を訪れるのは今回が初めてなので、楽しみにしています。私はフィロソフィー(哲学)として「場所は場所ではない、そこにいる人々が作り上げるのが場所」と思っているので、六甲ミーツ・アートに関係してコミュニケーションを取っているメンバーの皆さんと対面できることも待ち遠しいですね。

あとは、パフォーマンスをするのが六甲山というのは、神戸の中でもベストロケーションだと思うので、そこも非常にラッキーだと感じています。

Kiss PRESSの読者に向けてのメッセージもお願いします!

ダ:観ることは、ある意味コミュニケーションなので、柔軟な考えを持っていれば、アートに関する知識がなくても十分楽しんでいただけると私は考えています。「日本舞踊」や「BUTOH」を取り入れたパワフルで美しいパフォーマンスを皆さんに届けられるように、私の愛情やパッションのすべてを込めて踊ろうと思います。

最後は森山さんに締めていただきましょう。キュレーターとして今回のプロジェクトに対する思いや、ダニエルさんにパフォーマンスを依頼した理由も教えていただけたら!

森:『Artist in Residence KOBE(以下:AiRK)』の運営を昨年の4月から始めて、昨年も今年も六甲ミーツ・アートのために招聘されたアーティストの方には数名滞在していただきました。これから継続的にAiRKと六甲ミーツ・アートが関わっていく際に、どんなことが一緒にできるだろうか、というところから、今回の企画は始まっています。

今までの六甲ミーツ・アートは、どちらかというと国内のアーティストを招聘して、パブリックアートを作るということが基本でしたが、今後はもっとインターナショナルなアーティストやプロジェクトを展開していきたいという思いがあったそうで、その中で「スカルプチュア(彫刻)」などの静的なエキシビジョンだけでなく「パフォーミングアーツ」も取り込んでいきたいと。そんな中でAiRKがキュレーションをしてアーティストを招聘し、六甲ミーツ・アートでパフォーマンスを行う企画が成立していきました。

どういうアーティストを招聘しようかとなったときにダニエルが思い浮かんだ理由は、彼が日本の文化をかなりリサーチしていて、色んな情報がカオスに混ざり合った日本のカルチャーの “コア” をキャッチし、美しいものとして外に開く能力を持った素晴らしいアーティストだと思っているからです。

ダ:ありがとう!

森:どういたしまして(笑)。神戸という街は、国外から色々なカルチャーが流れ込んでくることによって生まれていった土地であることが大きなポテンシャルだと僕は思っていて。そんな神戸の街を “外から来たアーティスト” であるダニエルが眺め、フォーカスしていくことで、街の持つ魅力のコアを彼なりにキャッチし、ディテールだったり、ビッグピクチャーだったり、色々な側面を取り込みつつ、彼から見える日本文化として再提示する。そうしたインタラクションを神戸という場で行い、そこから生まれるパフォーマンスを神戸を象徴する六甲山の山頂で行うことに、とても意義があると思っています。

 


 

【profile】

(右)Daniel Proietto(ダニエル・プロイエット)

アルゼンチン出身のダンサー・振付家。16歳でチリのサンティアゴ・バレエ団に入団。2005年に独立後、振付家としてのデビュー作品が2007年のドイツ・ハノーファー国際振付コンクールで1位を受賞。自身もダンサー・振付家として世界的に活動を展開しながら、指導者としてもワークショップやレッスンを行う。日本舞踊や日本で生まれた暗黒舞踏などにも造詣が深い。

(左)森山未來

俳優・ダンサー。5歳から様々なジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。「関係値から立ち上がる身体的表現」を求めて、領域横断的に国内外で活動を展開している。


【イベント概要】

『六甲ミーツ・アート芸術散歩2023 beyond』
会期:2023年8月26日(土)~11月23日(木・祝)

■Daniel Proietto氏によるパフォーマンス「Goddamn Beauty」
日程:8月26日(土)、27日(日)※雨天決行
開場:17時15分
開演:17時30分
場所:ROKKO森の音ミュージアム(神戸市灘区六甲山町北六甲4512-145)

※パフォーマンス鑑賞には、六甲ミーツ・アート芸術散歩2023beyondの 鑑賞パスポート事前予約 が必要になります。

『六甲ミーツ・アート芸術散歩2023 beyond』に関連する記事はこちら

 

通訳:伊東シャノン
文:甘佐直人
写真:秀村安奈

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