2022年に神戸北野で立ち上がった『Artist in Residence KOBE』(通称:AiRK)という施設をご存知でしょうか?
「アーティストの支援や育成 」や「アーティストとその地域の人々を結ぶことによる、地方創生に繋げる文化の醸成」を目的とした取り組みを行っています。
今回は『AiRK(アーク)』を運営する『HAAYMM(ハイム)』のメンバーである森山未來さんと松下麻理さんのお二人に、『AiRK』の活動や設立のきっかけについて対談形式で語っていただきました。
神戸の“外”からくるアーティストたちの生活・制作の場として
松下(以下:松)「Artist in Residence(アーティスト・イン・レジデンス、以下AIR)」という言葉自体、まだまだ知らない人も多いと思うので、まずは未來さんから説明をお願いできますか?
森山(以下:森)そうですね、例えばここは神戸ですけれども、神戸に住んで活動しているアーティストの方もいるわけです。だけどそうではなくて、別の場所を拠点にして活動することを求めるアーティストも一定数いるんです。
そういったアーティストは自分の生活の場から離れた場所、あるいは違う場所に一定期間滞在することで、何かを作り出すためのインスピレーションを得たり、リサーチをしたり、実際に作品を制作したりします。そんな時間や機会を提供するための場所、というイメージです。滞在期間も様々で、『AiRK』では短い人だと2週間、長い人は3ヶ月で推奨しています。
森:例えばここ『AiRK』に関して言うと、キッチンがあり、他に滞在しているアーティストもいたり、麻理さんのような管理人がいたり…。普段過ごしている日常の延長線上にあるような環境を用意しています。
そういう中で、自分がちょっとした異邦人として客観的な目線で神戸という場所に関わったり、地元のいろんな人と出会っていく中で、様々なインスピレーションを得ていく。それが作品作りに繋がっていく。そういう場所として、AIRは重要だと考えています。
松:正直私は最初に未來さんからそんな話を聞いたときには全然イメージできなかったんですけど、今ならよくわかります。
森:いや、もう僕よりわかってるでしょ、麻理さんは(笑)。(この1年で)たくさんのアーティストと対面してきたからね。今(5月中旬)はフィンランドとイタリアの方が滞在しているけど、文化も違えば生活の習慣も違うであろう皆さんと、麻理さんは常に生活を共にしていらっしゃる。すごいな、僕できるかな(笑)。
松:案外楽しいですよ(笑)。
二人の出会いが『AiRK』誕生のきっかけに
松:私たちが出会って、かれこれ2年ぐらいですかね。ある映画の現場がきっかけで。
森:麻理さんはAiRKの管理人さんでもありつつ、『神戸フィルムオフィス』で映画やテレビのロケ地として神戸に撮影クルーを招聘したり、地元の人たちと撮影の交渉をする仕事もされています。
松:神戸では2日に1回ぐらいはロケがありますよ。
森:僕が神戸で撮った映画のフィルムコミッション担当としていらっしゃったのが最初ですね。その時は同時に神戸の文化施設であるNPO法人 DANCEBOXやデザイン・クリエイティブセンター(KIITO)とも仕事をしていたこともあり、麻理さんに会うたびに「国内外からアーティストを招聘する取り組みが多い神戸にはAIRのような施設があった方がいいですよ、どこかに良い物件ないですか」みたいなことをずっと話していたのが、『AiRK』設立のきっかけですね。麻理さんや今の運営メンバーの人たちから声がかかって。「あんた言い出しっぺなんやから、やるなら入らなあかんやろ」と(笑)。
松:仕事柄、俳優さんはよく見るんですけど、現場の皆さんは緊張されているので、あんまり喋るってことはないんですよね。なのにね、未來さんはもう、カメラが回ってないときは普通の神戸のお兄ちゃんなんですよ。
だからそういう話も気さくにしてくださって。神戸出身の俳優さんがそこまで言ってくれるのを、これは何かサポートしないとあかん!という気持ちにうっかりなってしまった(笑)。そんな時にこの物件が見つかったこともあり、「やるしかない」と腹をくくったわけです。
人と人、施設と人が“繋がりあう”ことで街をより面白く
森:AIRって、基本的には滞在施設と作品制作のためのアトリエだったり、スタジオがセットになっているんですが、『AiRK』には滞在施設しかありません。KIITOやC.A.P.など神戸に様々ある文化施設と連携し、各施設が行っているレジデンスプログラムで招聘されるアーティストにここを使ってもらうことが第一のスタンスだからです。
神戸はダンスや現代美術など、色々な分野で面白いことが起こってるんですけど、あまり横で繋がってない印象というのがあって。みんなが独自に、マイペースに、自分たちが面白いと思ってることにフォーカスしてるんですよ。それもすごく良いんだけれども、そんな人たちが緩やかに繋がりながら全体で文化を支えていく、あるいは面白くしていくような流れになっていけばもっと良いなという思いもあるんです。
だから『AiRK』がそういう“出会いの場”になるというか、各地から集まったアーティストたちや文化施設の人たちがここでばったり出会って、それこそ麻理さんのおもてなしによって繋がりあう、そういう場所にもなってほしいと思っています。
森:もう一つ、これからじっくり時間をかけていかなきゃいけない部分でもあるんですが、僕らが母体となって国内外からアーティストを招聘することもやっていきたいと考えています。
アーティストと交換条件を作って、過剰に搾取するというようなつもりはありませんが、それでもワークショップを行うなり、滞在で得た成果をどこかで発表してもらうなりして、地域の人たちと何か接点を持つようなアクティビティをやってもらいたいという思いはあります。だから、僕らが主体となって呼んだアーティストには「何ができるか」ということを、いろいろディスカッションしていきたいです。
例えば、パフォーマンスにまつわるアーティストなら、新長田のダンスセンターNPO法人 DANCEBOXに場所を貸してもらえるかもしれないとか、平面や立体の作品を制作・発表できる場を設けたいなら、現代アートに特化した文化施設、C.A.P.の工房だったりアトリエを提供してもらうとか。そういったことができればいいなと思っています。
松:そういえば、ちょうどイタリアから来ている方が、C.A.P.に自分で飛び込みで行って、場所を借りて制作したりしてるみたいですよ。
森:そういう風に繋がって、それが神戸の人だったり、場所だったりに還元されていくと嬉しいですよね。