2022年に神戸北野で立ち上がった『Artist in Residence KOBE』(通称:AiRK)という施設をご存知でしょうか?
Artist in Residence(アーティスト・イン・レジデンス、以下 AIR)とは、アーティストが一定期間ある土地に滞在し、日常とは異なる環境で作品制作やリサーチ活動を行うこと。
「アーティストの支援や育成 」や「アーティストとその地域の人々を結ぶことによる、地方創生に繋げる文化の醸成」を目的とした取り組みを行っています。
今回は【前編】に引き続き、『AiRK(アーク)』の運営メンバーである森山未來さんと松下麻理さんのお二人による、アーティストが滞在中のエピソードやAiRKが目指す未来についての対談の模様をお届けします。
アーティストとの交流が“世界”を小さくしてくれた。神戸の良さも再発見
松下(以下:松)私たちがアーティストの受け入れを始めてもうすぐ1年になります。これまで38組の方を迎え入れましたが、ジャンルも国も、本当にいろんな人が来られました。現代美術の人がいたり、ダンサーがいたり、映画監督がいたり…、音楽家の人もいましたよね。「アートってこんなに幅広かったのか!」と驚いています。
森山(以下:森)『AiRK』を運営している6人のメンバーの経歴も多彩ですよね。麻理さんは神戸フィルムオフィスで、ほかにも不動産・建築関係に詳しい方、現代アートが専門の方、食に詳しい方など。すごく個性的な面々が揃っていると思います。
松:最初は、「違うジャンルのアーティスト同士が仲良くなれるのかな?」と思っていたんですけど、レジデンスに泊まろうという人は基本的に社交的な人が多かったです。普通にお友達になって、「今日はみんなでご飯を食べようか」なんて話もされています。私も「一品ずつ作ることにしたからマリもどう?」と誘われて、フランス人とアメリカ人と私が料理を一品ずつ作って食べたことがありました。
森:みんな何を作ってきたんですか?
松:アメリカの方はもうジャンキーな感じでしたね(笑)。
森:それは語弊があるでしょ(笑)。
松:フランスの方は卵を使った料理で、私は煮付けを作りました。面白いのが、アメリカの方が「デザートがあるよ」と出したのが、アメリカではなく“パキスタンのお菓子”で、「パキスタンに行ったことがあるの?」と聞いたら、「ないよ」と言うんです。じゃあなんで知っているのかと質問すると「それがニューヨークさ」って(笑)。なるほど、と思いましたね。
国籍もジャンルも違う人が、たまたまここで出会い、いろんな話をして、お互いに何か影響を受けあって、また自分のグラウンドに戻っていくのがとても面白いなと、この1年たくさん経験しました。
森:それは麻理さんがめちゃくちゃ経験してることかもしれない。
松:そうやっていろんな国の人と関わっていくと、地球が自分の感覚値で言うと今までの4分の1ぐらいの小ささになったような気がします。
森:(世界中に友達ができて)自分の中で広い世界だったのがすごい狭くなったんですね。素晴らしいことだと思います。
松:滞在したアーティストに神戸の感想を聞いたりもしているんですが、あるアメリカ人ピアニストの方は「自然がものすごく近くにある」と喜んでいました。その人は北野から摩耶山まで歩いて半日で往復されていたのも印象的です。
森:すごいな(笑)。
松:あともう一つ、フランス人の方は「外国人だからと言ってジロジロ見られたりとか、避けられたりとかそういうことがなく、この場にいることを自然に受け入れてもらってるような気がする」と言っていました。それがなんだかすごく“神戸っぽい”なって、感じたことを覚えています。
いつもと“違う場所”で過ごす時間がアーティストにもたらすもの
松:未來さんはアーティストとして、国内外のAIRに滞在されてるんですよね。何か印象に残ったことってありますか?
森:いろいろあるんですけど、例えば2019年に香港のレジデンスプログラムを利用した時はデモの真っ最中で、自分が滞在している場所からでもデモの参加者たちが警察から逃げている様子が見えました。街を歩いている時も「目が痛いな」と思ったら、催涙ガスの残り香だったりとか。
そういう緊張感だったり、空気感みたいなものをそのまま作品に取り入れるわけではありませんが、現地で過ごした時間だったり経験というものが、作品に反映されるのは毎度感じますね。
『音』にまつわる作品を作ろうと思って冬のノルウェーでレジデンスしたときは、周りに雪しかないようなところに滞在したんですが、雪って音を吸うから外に出たらまったくの“無音”なんです。そういう空間の中で音のことを考えたりだとか、そういうのがすごく良かったと思います。
松:今聞いてるだけでも臨場感があるというか、環境にすごく影響されるんだなということがよくわかりますね。
森:人生が続いていく中で、クリエイションだったり表現というものを続けていくと、何か新しい刺激や、違う角度で物が見れるような、インスピレーションが欲しかったりするのは、アーティストに限らず誰にでもあると思いますが、そのために、住む場所だったりリサーチする場所を変えてみる取り組みは、アーティストにとってすごく重要で。
例えば僕がよく繋がってる国内のレジデンスは、国内外から年間1000組ぐらい応募がくるそうで、やっぱりみんなめちゃくちゃ求めてるんですよね、“違う場所”を。AIRが持ってるポテンシャルに触れて、アーティストである自分に何が起こるのか、そこに期待するものがあるんです。
リサーチの先にある“降りてくる”何かを求めて
松:アーティストの方のいう『リサーチ』とは、一体どんなことをするものなんですか?
森:決まった方法はありません。「こういったものが作りたい」みたいな漠然としたイメージがあっても、それを具体的に落とし込むアイデアがまだない時にレジデンスを使って、その場所で何かと出会うのを待つ人もいれば、自分の作品づくりにおける“コンセプト”に付随してリサーチを行う人もいます。
例えばイスラエル出身のアーティストなら、ベースに宗教的なストラグルだったり、コンフリクトがあると思うので、ほぼ世界中の宗教が混ざり合ってる北野の現状をリサーチしていく中で発見したものを持ち帰り、イスラエル人としてのアイデンティティと照らし合わせながら作品にしていくかもしれません。
松:『AiRK』を訪れるアーティストの方は、自分の興味のある分野を調べに行かれることが多いですね。「こんなことに興味があるんだけど、どこ行ったらわかるかな」と相談を受けた時にちょっとヒントを言ってみると、グググっと入り込んで調べてこられます。
そうして出来上がった作品を見たら「こういう風に表現するのか」とびっくりすることが多いです!私1人が知るのはもったいないといつも思っているので、叶うならこの驚きをたくさんの人に体感してもらいたいですね。
森:知識を集めること自体はそこまで重要ではなく、その先で自分に“何が降りてくるのか”というのが大事なんです。調べたことをそのまま出すのではなく、その先に行くためのヒントを見つけたいからひたすら調べるというのは、僕も結構やりますよ。