タマ子がひたすらダラダラしていますね。

　僕の奥さんが家でDSやりながらTV見るという日常があって（笑）、僕にとっては当たり前な風景だったりするんですよね。女性のそんな無防備な姿って、ある種甘えているし信頼してくれているとも思うんです。
　究極のことを言うと僕は寝顔とか好きなんですよね。あんまり信頼していない人の前で寝るってできないけど、それを見せてくれるっていうことが特別かなと。女性の頑張っている姿とかキラキラしている姿というよりも、隙を見せてくれている瞬間が好きというか。
　特に最初の秋編は、そういう普通は映画ではあまり描かないところを、アクションだけ…っていうほどアクションもしていないんですけど（笑）、描写だけで作ってみたらどうなるんだろう？っていう挑戦でもありました。

　撮影はいかがでしたか？

　秋編から順番に撮ったんですけど、秋編の台本見ると台詞がほとんど前田さんの台詞はないわけですよ。「んー」とか「それで」しか書いてないから、普通の役者さんだったら不安になると思うんですよね。本人はもしかしたら「どうしよう」というのはあったかもしれないですけど、それを彼女は平気でやるもんだから逆に撮ってる俺が不安になってましたね（笑）

　現場では役作りなどの話は特になかったということですか？

　「タマ子はこういう性格で」「こんな感じで」などという説明はしませんでしたが、ロールキャベツを食べるシーンにしても「もっとだらしなく！」など、演出をしながらお互いがタマ子を理解していく感じはありました。
　父親に向かって「少なくとも…今ではない」というシーンなどはすごく時間かけてやりましたね。あのセリフには、「分かってるわよ！」というのと「言われたくない！」「コノヤロウ！」という感情が全部が詰まっているから、「父親を呪う気持ちでやってくれ」という演出をしたり（笑）
冗談っぽく聞こえるかもしれないけど僕は本気で言ってて、そういうことを前田さんは「やってみます」と思い切り良くやってくれました。
　そんなシーンを経て、なんとなく僕と前田さんの間で「タマ子ってこういう子なんだ」っていうのはつかめた気がしたので、すごくやりやすい方でしたね。

　前田さんの魅力はどこにあると感じましたか？

　猫っぽいとかよく言うんですけど、そういうたたずまいは魅力的ですよね。僕は別に猫好きでもなんでもなかったんですけど、どこか気まぐれなとこもあるし、考えてないようで考えているし…。プライベートでの交流があるわけではないから仕事のときにしか会わないんですけど、一緒に仕事をするうえですごく魅力的な方だなと思います。

　アイドル時代の前田さんもよくご覧になっていましたか？

　彼女が『天然コケッコー』を観てくれて、すごく好きだと言ってくれていたというのを人から聞いてはいたんですよ。だから映画好きなんだなとは思っていました。
　僕が覚えているのは『苦役列車』の顔合わせで初対面ですね。ガチャッと扉が開いて前田さんが来たとき、僕はだいぶ年上だからどっしり構えてはいたけど心の中では「本物だ！」と思っていたんですよ。だけど前田さんの方が、僕の顔を見て「あ、本物だ！」って。
　それでもう心をつかまれてしまいましたね（笑）。