神戸を拠点に国内外のアーティストを招聘し、創作活動を支援しているArtist in Residence KOBE(以下 AiRK)が主催するアートプログラム「AiRK Research Project vol.2 Walls and Frogs −境界線に見るあわい−」(キュレーター:森山未來)が、11月24日まで北野にある『神戸ローズガーデン』で開催中。現代アーティストの山田悠(やまだ はるか)さんとサム・ワイルドさんの2人が神戸の街をリサーチし、それぞれの視点で再発見した“街の魅力”を落とし込んだ作品を鑑賞できます。
山田悠:「不整合の擁壁」
山田さんは2022年に森山未來さんがキュレーターを務めた「神戸リパブリックアートプロジェクト」というリサーチプロジェクトをきっかけに神戸を訪れ、その後、東京と神戸を何度も行き来しながら約1ヶ月半ほど神戸に滞在し、今回展示されている「不整合の擁壁」を制作されました。
この作品は山田さんが北野の街を巡る中で出会った様々な「擁壁」(ようへき:高低差のある土地で土砂が崩壊するのを防ぐために設けられる壁)をフロッタージュ技法*を用いて身体的・視覚的に記録した作品で、複数の擁壁がコラージュされています。
*凹凸のある素材の上に紙を置き、鉛筆や色鉛筆などでこすることで、その素材の形状や模様を写し取る技法のこと。
タイトルの「不整合」とは、地層の中に連続しない部分が生じることを指す言葉で、神戸の開港以来、雑居地として発展した北野の本質を、不整合という概念を通して再解釈した作品という意味が込められています。
2年前に初めて神戸を訪れてすぐに「壁がすごく面白い街だな」と感じたそうで、「神戸は海から山へと続く傾斜地になっており、傾斜地に人が住むために擁壁をつくる必要がありました。興味深いのは壁をつくる時に元々あるものを壊してから新しいものをつくるのではなく“付け足したり、重ねたりしている点”で、異なる時代(時間)や文化が交じり合った独自の風景を生み出しています」と、神戸の壁が持つ魅力を教えてくれました。
「ある壁の場合は一番下が石垣でその上にレンガがあり、そこにブロック塀が積み上げられている。人間の意図だけでなく、震災や土砂崩れ、大雨といった自然の影響を受けた跡も見受けられます。そんな北野の壁を私が見た時に、その場所に何があったのか、何が起きたのかを想像したり、読み取ったりとかをすることができる、“街の記憶が壁に痕跡として残っている”ことに面白さを感じて、作品の制作を進めました」と山田さんは話します。
展示室には山田さんがリサーチした壁の情報をポスター形式にした「Wallpaper:不整合の擁壁のリサーチ」も展示されており、こちらは来場者が自由に持ち帰ることができます。
作品の鑑賞後にポスターとともに北野の街に出て、実際に「擁壁」を巡るのも面白いかもしれませんよ♪
会場では山田さんが2013年から計画・進行中の「Sun of the Cityプロジェクト」の紹介展示も行われています。既存の構造物を使って日時計を制作するアートプロジェクトで、将来的に神戸での実施も模索されているそうなので、こちらの展示もぜひチェックしてみてください!
サム・ワイルド:「Equi-(エクイ)」
サムさんはイギリス・ロンドン出身のアーティストで、AiRKのオープンコール(呼びかけ)への応募をきっかけに、今回の展覧会に招聘されました。今年の9月から神戸に滞在し、山・海・街中など様々な場所でリサーチを行って作品「Equi-(エクイ)」を制作。“神戸のコミュニティ”をテーマにした、来場者参加型の作品です。
サムさんは様々な「パターン(図案・模様)」を用いて特徴的な世界観を構築するアーティストで、神戸でのリサーチ中も街を巡りながらコンクリートの模様や草木など様々なパターンを収集していったそう。
今回の作品ではカラフルで個性的な模様を持つ『蛙』がパターンとして使用されており、その理由について伺うと、「神戸は海と山に囲まれた都市であり、両生類である蛙もまた水と土の両方がないと生きていけない生きものです。その共通点から着想を得て、“神戸の人々を表すモチーフ”に選びました」と教えてくれました。
会場を訪れた来場者にはモチーフである『蛙』を描いたカードとシールがプレゼントされます(1000枚・先着順)。蛙のカラーリングや模様のパターンはサムさんが一つひとつデザインしており、ひとつとして同じものはありません。
これは様々な人種・文化・宗教の人々が暮らす神戸の街の“多様性”を表しており、パターンによる上下関係や良し悪しはなく、すべての人は平等であることを強調し、今回の展示のタイトルである『Equi-:平等化/均等化』につながっているそうです。
展示会場には『蛙』のシルエットが描かれた壁が用意されており、来場者が「蛙のステッカー」を自由に壁に貼っていくことで作品が完成します。貼り方に制約はなく、壁の模様に合わせて貼るもよし、斜めに貼ったり、すでに貼られているステッカーと組み合わせるように貼るのもよしと、一人ひとりの自由な感性に委ねられています。
人々の個性や多様性が集まることで作品が完成する=社会が構成される仕組みになっているのが面白いですね♪
「日本人は集団的な感覚がとても強い民族で自分の内面を表現することが苦手な人が多い印象を持っていましたが、ファッションなどを見ていると決してそうではないと感じたので、今回の作品は皆さんのパーソナルな部分を引き出せるようなものにしたいと思いました。リラックスしながら“自由に貼ること”を楽しんでください」とサムさんは話していました。
2人展という形:お互いの印象について
山田:展覧会への参加が決まった時、ウェブサイトでサムさんの作品を拝見したのですが、彼の作品はとてもカラフルで賑やかな面白さがあり、モノトーンでシンプルな作品が多い私とは雰囲気もメチャクチャ違って、最初は「なぜサムさんと私の2人なんだろう」と不思議に思った部分もあります(笑)。ただ、神戸で初めてお会いしてお話をしてみたら、全然違うやり方なのに、興味を持っている部分がすごく似ていると感じました。
今回も2人とも壁のある作品を作っていますし、何かひとつ大きなものをつくり上げるのではなく、たくさんの小さなもので表情や風景ができ上がるような作品である点も同じで。真逆だと思っていた2人の間に共通点が見えたのは面白い経験でした。
サム:悠さんの作品を観た時、とても日本人らしいアプローチの仕方をされるという印象を受けました。日本人のアートに対するアプローチ方法や、自然からどのようにインスピレーションを得るのか、悠さんの作品から知ることができ、彼女との出会いにインスパイアされた部分もあります。そして「壁」という同じコンセプトをもとに作品を作り上げたことも、共通点として興味深かったです。
【PROFILE】
山田悠
1986年神奈川県生まれ。武蔵野美術大学油絵学科卒業後、フランスのディジョン国立高等美術学校に留学し、空間デザインとアートの過程を修了。変動する都市環境の中で自らの行為をどのように作品として成立させることができるかについて関心を持ちながら、都市、自然、人間という要素を相対的に捉え、ものごとの関係を測り直す作品を制作している。
サム・ワイルド
ビジュアル・アートとサーフェス・デザインの交差点に自身の活動を位置づけ、パターン制作における特徴的な世界観の構築というアプローチを通して、ストーリーテリングを行う。パターン化された世界を通して、臆することなく温かさと個性を表現した作品で、観るものの身体、家、空間を豊かにすることを目指している。
【イベント概要】
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会期 | 2024年11月2日(土)~24日(日) |
場所 | 神戸ローズガーデン KITANO THE MAGNET (神戸市中央区山本通2丁目8-15) |
時間 | 11:00~18:00(予定) |
入場料 | 800円 |
休廊日 | 水曜日 |
参加アーティスト | 山田悠、Sam Wilde(サム・ワイルド) |
キュレーター | 森山未來(Artist in Residence KOBE) |