六甲山の山上を舞台にした現代アートの芸術祭「神戸六甲ミーツ・アート2024 beyond」の開催まであとわずか。今年も『Artist in Residence KOBE』の森山 未來さんがオープニングパフォーマンスをキュレーションし、フランス人パフォーミングアーティスト、フランソワ・シェニョーさんと、日本を代表する舞踏家・麿 赤兒さんによる『秘儀ーGOLD SHOWER』が上演されます。
Kiss PRESSでは、8月24日(土)、25日(日)の本番に先駆け、シェニョーさん・麿さん・森山さんにインタビューを実施!作品誕生のきっかけや見どころについてお話を伺いました。
麿さん、シェニョーさんの出会いから『GOLD SHOWER』が誕生するまでの経緯について教えてください!
麿 赤兒(以下:麿)2013年にフランスのモンペリエという街で、初めてフランソワの踊りを見た時に、大変な感銘を受けました。高貴さ、危うさ、明るさ、そういったものがないまぜになった彼の存在から、僕の中で様々な想念が沸き起こり、ぜひ彼と一緒に踊りたいなということで、僕からアプローチしました。とにかく、彼の美貌に一目ぼれしたわけです。
フランスで舞台制作に関わっている副島 綾さんに「何とかしてくれ」というようなことを伝えて、1年ぐらいかけてアプローチしました。それが、彼との初めての出会いです。
フランソワ・シェニョー(以下:シェニョー)麿さんが話している内容が僕の記憶と一致しているか、あるいは妄想を生み出して話しているのかどちらになるだろうと聞いていましたが、僕が認識してるものとだいたい同じでした(笑)。
ただ、モンペリエで出会う前に、麿さんが主宰する舞踏カンパニー『大駱駝艦(だいらくだかん)』がパリ日本文化会館で上演した『灰の人』という作品を観に行ったのが、僕にとっての麿さんとの最初の出会いだったように思います。
その後、モンペリエで僕の踊りを初めて麿さんが観てくれて、終演後に僕の耳元に顔を近づけて「こんな話を私は想像している」という風に妄想を吹き込んでくれたんです。それが『GOLD SHOWER』誕生の、最初のきっかけだったと思います。
その後、何年もかけてお互いが相手に抱いているイメージ=妄想をどうやって形にするのかという作業を行い、このプロジェクトが実現しました。
麿:フランソワの話の方が正確ですね(笑)。
シェニョーさんは過去のインタビューで、『GOLD SHOWER』が誕生するまでの麿さんとの歳月を「秘密の関係」と表現されていましたが、そこにはどんな思いが込められていたのでしょうか?
シェニョー:『GOLD SHOWER』は2020年にフランスで初演が実現しましたが、モンペリエで出会ってからの7年間は、お互いに「どう実現するのかわからない」という期間が長かったです。一緒に何かをやりたいことはわかっていましたが、どのようにリハーサルが行われるか、タイミングもわからない期間が続き、それはまるで、不思議な二人が共有する土壌のようなものに種をひとつ植えて、その芽がいつ出るのかわからない中、二人で見守りながら水やりをするような時間でした。
それは、現代においてとても貴重な時間の取り方でした。すべてにおいて生き急いでしまう今の時代に具体的な日取りを決めずに取り組めたことは、私たちの持つ様々なイメージを十分に発酵させる時間になったのではないかと思っています。
麿さんにとって、7年の月日はどのような時間でしたか?
麿:フランソワが日本に来た時に、何日か僕のスタジオで互いに体を合わせて、色々な感触を探り合いました。その時点で僕の頭の中にはひとつのイメージができていたので、そのイメージに沿って動いていましたが、彼にとっては理解しがたいものもあったと思います。そんな、二人の間にあるズレを少しずつ合わせながら進めていきました。そして2020年の8月に僕がフランスへ渡り、約1ヶ月かけてリハーサルを行いました。
二人で「ああでもない、こうでもない」と言い合う時間に、作品を創り出す産みの苦しみや楽しさを感じていたことを覚えています。そういえば、未來くんは今ヴェニスに滞在している*そうですが、同地を舞台にした映画『ヴェニスに死す』は、ある年老いた作曲家が美貌の青年と出会い、それを追いかけ回すお話ですが、まさにそういった要素も取り入れながら、作品をつくっていったところもありますね。
*インタビューの日、森山さんはイタリア・ヴェニスから参加。
『秘儀 ― GOLD SHOWER』作品の概要や見どころについて教えてください!
麿:フランソワと初めて出会った時、僕の頭の中に浮かび上がってきたのは、アントナン・アルトーという作家でした。非常に破壊的な作家で、フランス文学界においてはアウトサイダーな人物なんですけど、彼の作品に『ヘリオガバルス』という、14歳でローマ皇帝に即位した人物を描いたものがあって。
高貴で卑猥、なおかつ破壊的なヘリオガバルスのイメージが彼にぴったりだと感じ、「あなたはヘリオガバルスをやるべきだ」と伝えました。そういった「コンテキスト」がまずある中で、それをそのまま演るのでは芸がないということで、話し合いや体のぶつけ合い、お互いの身振り手振りを真似し合うなど、試行錯誤を重ねながらつくっていきました。
ヘリオガバルスが作品の「通奏低音」としてありながら、そこからどんどん広がりを持たせていったような感じです。
森山 未來(以下:未來)ちなみに、アルトーを専門に翻訳しているフランス文学者の鈴木 創士(すずき そうし)さんが神戸に住んでいて、よく北野で一緒に飲んでいます。また、「ヘリオガバルス」は、僕が最近、作品に参加させていただいている笠井 叡(かさい あきら)さんの別名でもあります。土方 巽(ひじかた たつみ)さんが叡さんに授けた名前がヘリオガバルス・笠井なんですよ。いろいろ繋がってきて驚きました。
麿:僕はギュスターヴ・麿だよ。当時、そういう名前付け遊びをしていたんだよ(笑)。ジュネ・土方とか。
シェニョー:これまでダンスを見たことのない方に向けて話すとしたら、この作品は「世界観が完全にかけ離れた二人の人間の出会いの物語である」ことを最初にお伝えしたいです。違う大陸、違う国に住み、違う文化で育ち、違う踊りをしてきた年代も異なる二人の人間が舞台を一緒に作ったらこうなったという点にご注目いただきたいです。
私たちのように40歳くらい年齢が離れていて、「暗黒舞踏」と「コンテンポラリーダンス」という違う踊りを踊ってきた、体の使い方も異なる二人が出会うということは、ヨーロッパでも非常に珍しいことなんです。
シェニョー:『GOLD SHOWER』では、ヘリオガバルスというローマの破天荒な皇帝と、彼を皇帝の地位に就かせた乳母や、彼の恋人、彼を暗殺をする近臣など、色々な見方ができるような物語性のあるダンスを見せていますが、違う出自の二人が、一緒に踊ることの喜びや難しさ、そこに生まれる「変態性」みたいなものを展開していく作品でもあります。
一見、暗くてドロドロとした世界観に見えるかもしれませんが、これだけ離れた二人が同じ体というものを使って、互いに近づこうとしている「ひとつの夢」として見ていただけたらと思います。
例えば、麿さんが年寄りの役で、僕が美しい青年皇帝という見方もできるけれど、麿さんがものすごく力を持っているスーパーヒーローのような存在に見える瞬間もあるかもしれない。あるいは、麿さんが僕の乳母で、僕を皇帝の地位に就けようとしているような関係性に見える部分や、僕たちが年齢の離れた同性の恋人同士に見える場面もあるかもしれません。それでも作品の根底にあるのは「かけ離れた二人の時間」という「夢」なのです。
麿:うまいこと言うねぇ!
森山さんはキュレーターとして、どういった思いで今回のオープニングパフォーマンスを企画されたのでしょうか?
未來:昨年の六甲ミーツ・アートでも、AiRKとしてオープニングイベントをキュレーションさせていただいたんですけど、今年は何をしようかなと思っていた時に、これまたこのインタビューの通訳である副島綾さんにつないでいただいたことがきっかけでした。
僕と麿さんはこれまでお仕事でしっかり関わる機会はありませんでしたが、昔、『大駱駝艦』が運営されているスタジオ『壺中天』に作品を観に行った時、スタジオの近くにある友人の飲み屋さんを訪れたら、そこで麿さんが飲んでいたという記憶があります(笑)。
麿さんは、唐 十郎(から じゅうろう)さんとの『状況劇場』や、暗黒舞踏の創始者と呼ばれる土方 巽さんとの出会いを経て『大駱駝艦』を立ち上げ、それらを率いている生きるレジェンドでありながら、今も最前線を走り続ける表現者として、大きなリスペクトを持っています。
最近、唐さんがお亡くなりになりましたが、彼が提案した「特権的肉体論」という、存在している身体そのものが、舞台上の時間や空間を満たすという考え方に非常に共鳴するものがあって。それを麿さんは体現し、踊りや演劇といったものを超越した存在であるという印象を持っています。
そうした印象を、僕はフランソワにも感じる部分があって。彼の作品を生で観たことはまだありませんが、映像などを通じて作品を観ていくと、彼もパフォーミングアーティストとして、身体的なアプローチだけに留まらない表現者であることがわかります。例えば、つい最近のツアーではビートボクサーとコラボレーションし、踊るし、タップダンスも踏み、さらには歌う、といったような。
彼の存在は性別すらも超越しているかのように見え、彼の存在そのものが、空間や時間を埋めてしまうものだと、僕は認識しています。
その2人によって制作された『GOLD SHOWER』が面白くないわけがないだろうと。川俣 正さんが手掛けた『六甲の浮橋とテラス』の上に二人が立っている画が見たいと思いました。オファーを受けていただき、本当にありがとうございます。
最後に、読者の皆さんへのメッセージをお願いします!
麿:7月に神戸で『クレイジーキャメル』という作品を上演しましたが、ありがたいことに大変な盛況でね。神戸のお客さんたちと深く触れ合えたように思っています。ラストのカーテンコールでも温かい拍手をいただき、非常に感慨深かったです。
神戸の皆さんはコスモポリタンというか、色々な人種・人々が交わりながら、うまく共存している。例えば、北野の街にはイスラム教、ユダヤ教、キリスト教など、世界のあらゆる宗教が集結していて、日本人の人間性というか、そういうものにふわりと包まれている。言葉を変えると、「無政府状態にある、しかし平和だ」というような印象を受けましたね。
会場の『六甲の浮橋とテラス』は、水の上に回廊があり、その先に舞台があります。先日現地を訪れた時、そこに立つ姿を想像しながら歩きましたが、睡蓮が池の中にある風景はまさにモネの絵のようで、その周辺にはそこかしこに美術品が置かれます。そんな空間の一環として、舞台に立つ我々を見ていただけると嬉しいです。
さらに今回は、生演奏としてパーカッションのスティーヴ エトウさん、雅楽の管楽器である鳳笙(ほうしょう)の名手・井原 季子(いはらときこ)さんも参加し、舞台を盛り上げてくれますので、そちらにもぜひご注目ください。
シェニョー: 森山 未來さんという、本人が既に素晴らしいアーティストである方が、自分の時間を使って場所やコンセプトをしっかり組み立て、公演の機会を作ってくれました。そこに我々が呼ばれて行くことができることを嬉しく思います。
山の頂にある自然に囲まれた環境の中、2日間という限られた期間に、限られた人たちに向けて、そこでしか見ることのできないパフォーマンスを我々が作るということは、とても贅沢なことだと思っています。
それはきっと、皆さんを歓迎する贅沢な時間、ユートピアな時間になるでしょう。そんな「自然の神が許してくれた特別な時間」であることを、皆さんにも意識してもらい、集っていただきたいと思うし、私自身もこの特別な時間を心待ちにしています。
未來:『GOLD SHOWER』という作品が、まさに東洋の神と西洋の神が、徒然なるままにそこに顕現し、戯れて、去っていくような現象そのもので、それが六甲山頂の会場で繰り広げられることは、まさにお誂え向きであると、僕は思っています。
【profile】
François Chaignaud(フランソワ・シェニョー)
2003年にパリ国立高等音楽・舞踊学校を卒業後、多くの振付家と活動。2004年の初作品発表以来、彼の作品は歌と踊りの融合や歴史との深い関係を特徴とし、それは自身の作品だけでなく他のアーティストとのコラボレーションでも現れている。
麿 赤兒
1943年生まれ、奈良県出身。1972年舞踏カンパニー『大駱駝艦』旗揚げ。舞踏に大仕掛けを用いたスペクタクル性の強い様式を導入。“天賦典式”(てんぷてんしき:この世に生まれたことこそ大いなる才能とする)と名付けたその様式は、国内外で大きな話題となり、「BUTOH」を世界に浸透させる。
森山 未來
俳優・ダンサー。5歳から様々なジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。「関係値から立ち上がる身体的表現」を求めて、領域横断的に国内外で活動を展開している。
【イベント概要】
『神戸六甲ミーツ・アート2024 beyond』
会期:2024年8月24日(土)〜11月24日(日)
■Kobe Rokko Meets Art × Artist in Residence KOBE
-山頂でのオープニングパフォーマンス-
《秘儀 -GOLD SHOWER》
日程:8月24日(土)、25日(日)
開場:18時00分
開演:18時30分
場所:トレイルエリア(新池)川俣正《六甲の浮橋とテラス》(神戸市灘区六甲山町北六甲4512-145)
★チケット(全エリア立見自由席)
一般料金 4,000円(税込)
パスポート購入者割引 3,500円(税込)
U-22(パスポートの有無に関わらず)3,000円(税込)
※未就学児は入場無料(申し込み不要)
チケットの購入はこちら
https://lit.link/en/airkkobe
※24日の鑑賞チケットは完売しました。
※野外公演のため、天候が変わる場合があります。雨具のご持参をおすすめします(場内では傘はご使用いただけません)
※開演時間に遅れますと、しばらくの間ご入場いただけない場合があります。
※ご購入いただきましたチケットに関しまして、開催日時の24時間前以降はキャンセルは承れません。
【外部リンク】『神戸六甲ミーツ・アート2024 beyond』公式サイト
通訳:副島綾
文:甘佐直人
写真:秀村安奈